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あいさつって何故しなければいけないっすか?

私の新人研修の中身は実は親の3大しつけ

 毎年のことですが、3月の中旬から4月末まで、各地の美容室や美容学校、ディーラーの講習会場で新人研修のお手伝いをします。短くて3時間、長いときには7時間にわたって、若者の中に入っての研修は、たくさんのオーラも吸収できるのですが、反面、疲れも激しくなります。

 新人研修の中身は単純です。私たちが育った頃は、親が幼児の時からしつけておくべき人間関係づくりの基本「あいさつ・立ち方からお辞儀の仕方・言葉づかい・目の位置」「返事・笑顔づくりと顔の向け方から声の出し方、返事後の行動」「片づけ・掃除の仕方(サロンなら入口から出口まで)、整理、整頓、清潔」の3大しつけです。

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 それを親がキチンとしつけず、小中高の12年もありながら、担当教師がまったくしつけをしていなかったので、雇用した経営者がやむをえず行なっているわけです。

 美容学校が2年制になってから、私の知る限りでは2校しか3大しつけを徹底していません。今は親代わり、学校代わりに、美容室のオーナーがお客さまのために社員をしつけなければいけない世の中に成り下がりました。当然「そなえていなければいけない本人の能力」も給料を払ってまでも、教育しなければなりません。なんとも情けない世の中になったものです。

 ある日の朝、家を出るときに、最近何度か見かけたことのある近隣の住人(50歳くらいの男性)の「おはようございます」と大きな声であいさつしましたが、返事もなく目をそらして、そそくさと前を通りすぎて行きました。あいさつを無視されると不愉快になるものだと体感したわけですが…。

その日の研修会の出来事

 接客研修の中であいさつの訓練をする時は、先ず「起立」から指導します。胸を張って自然に立つ。これが最近の若者にはできません。どこか体が曲がっています。右傾や左傾、猫背で、前かがみも多く、矯正には1時間はかかります。自然に真っ直ぐ立てるようになってから「会釈・15度」「敬礼・30度」「最敬礼・45度」のお辞儀に移ります。真っ直ぐに立てないと3つのお辞儀もケジメがなくなってしまうわけです。

 そして、「おはようございます」「こんにちは」の声を出す訓練に入ります。新入社員の姿勢も声もお辞儀も良くなってきたのですが、1人の男性だけがブスッとして言うことを聞きません。そこで私は痺れを切らして「しっかりしろ20歳にもなって、これくらいできて当たり前だろう!」と怒鳴りました。そしたら、その男性は「あいさつって何故しなければいけないっすか? めんどくせい」と食ってかかるように言うのです。

 「エッ!」としばらく言葉が出ませんでしたが、「美容師はお客さまに相対して仕事をします。あいさつは相手の人に対して、あなたを認めました。私も認めて下さい。2人で良い人間関係を作りましょうという意味ですと、先ほど話したでしょう。それにお辞儀をするのは、私はあなたの敵ではありません。この通り首を差し上げます。自由にして下さい。それだけあなたと親しくしたいのですよという意味です」と話しました。

 「分かりましたか?」と訊きましたが返事がありません。そこで、朝の一件が脳裏をよぎりましたから、「返事は、あなたに声をかけた人への思いやりを込めて行なうもので『ハイ』は『拝』と書き、拝むとか敬意を表す言葉ですよ。返事は相手に対する思いやりです」。さらに、「お父さんやお母さんに呼ばれたらハイと返事をするでしょう?」と訊きましたが、無表情のままです。「君は失礼だね。分からないのか、分かったなら返事くらいしなさい!」。それでも知らん顔です。

 隣りの女の子が「A君返事しなよ」。後ろの男の子が「黙ってないで何とか言えよ」と促しましたが、「うるせい!」と言ったきりです。私は「これからお客さまにつくのに、あいさつなしや返事なしでは、誰も相手にしてくれませんよ。これだけ聞かせてください。あなたは何のために美容師になって、このサロンに入社したのですか?」と訊ねました。

 その質問に対して、彼の答えは「おれはカット技術を覚えるためにこのサロンに入ったので、あいさつとか返事とかの接客を覚えるためではないっす」というものでした。

仕事を学校の延長だと思っている美容師の認識

 私は「あなたは今までお金を払って学校で勉強してきましたね。今は給料をいただいて仕事として働いているんですよ。その仕事がまだ未熟だから、必要な技術や接客を身につけてもらおうと、経営者の方が私にお金を支払って皆さんに勉強してもらっているんです。あなたが自分の技術だけを磨こうと思ったら、お金を払って別の学校に行きなさい。あいさつができなければ、お客さまにつかせられません。学校に行ってウイッグだけ切ればいいでしょう。ふて腐れた態度は皆に不快感を与えて目障りだから、お帰りなさい」。

経営者は社員だけがほしい

 このやりとりを黙って聞いていた、そこのサロンの社長が席を立ち、こう言いました。

 「先ほどから聴いて、腹が立って仕方がありませんでした。入社式で話した通り、皆さんは社会人になったのです。自分の働きで給料は稼いでもらいたい。お客さまに早く慣れてもらいたくて研修しているのです。そして1日でも早くお客さまについて仕事をしてほしいと思います。当社には生徒はいりません。社員だけがほしいのです。A君と同じ考えの人は今月の給与は支払いますから今すぐ帰りなさい」。

 A君はブスッとした表情であいさつもなく、会場を出ていきました。
 本来なら、ここで彼を追いかけて真意を聴き、A君の納得のできるやり方で対処してあげなければいけないと思いましたが、後は社長に頼んで授業を再開しました。

店長も頭かかえる今の若者

 美容業界に入り、40年間勉強会を続けてきて、初めてぶつかった問題に驚きました。私たちの頃は道徳とか社会常識には親も教師も、周囲の大人たちも常に教えてくれたものです。あいさつや返事がなかったらゲンコツがとんできました。最近の親は「しつけ」と口で言っていますが、総体的には何もしつけていないようです。

 講習会終了後に、そのサロンの経営者に伺ったのですが、「面接の時にしきりに教育システムを聴きたがったけど、熱心な子だと思って採用したのですが、あれではどこにいっても駄目ですね。早めに分かって良かったです。やる気があれば明日は出社するでしょうから、よく話しておきます」。

 また、同席していた店長は「サロンで朝からあいさつがない。笑顔を作れ、言われたことは実行せよと話したのですが、あの子は全然駄目でした。普通は1〜2週間で慣れて、笑顔であいさつできるんですが」と頭をかかえました。

バカな親には子どもの教育はできません

 後日談ですが、翌日、A君の母親が事務所に怒鳴り込んで来たそうです。
 「A君を満席の中でいじめて恥をかかせたのは経営者が悪い。名誉棄損で訴える」と。
A君は家に帰ってから、物を壊したり、放り投げたりして暴れたそうです。そして、「自分が悪いんじゃない。立てのお辞儀をしろのという講師や経営者が悪い」とわめき散らしたようです。

 社長は母親の話をひと通り聴き、落ち着かせてから、昨日の講義の内容のレジュメを見せて、A君がどんな態度だったか、何を言ったか、どんな状況だったか話したそうです。また、店長からの話しも聴き、母親は「息子の話と全然違う。かえって迷惑をかけてすみません。私の教育が悪かったのでしょうか」と謝罪して帰ったそうです。

 母親はA君を「クン」呼びして、幼稚園児に対するような言葉づかいだったそうで、社長はA君がやる気があれば話しに来るようにと母親に伝えましたが、A君は2度と会社に姿を見せませんでした。

親が怠る3大しつけを企業が生き残るためにやる

 「あいさつ」「返事」「片づけ」は幼児期から身につければ簡単に身につくものです。空前の大不況といわれる中で健闘している企業はこの3つのしつけを基本に改革を行なっています。

 特にコストダウンを図るには「片づけ」を徹底して行なうことです。整理・整頓・清掃・清潔を心掛け(全員が共用する)事務用品の無駄、人の無駄(人を使わず自分でする)、水道(サロンではシャンプーは1分間で充分落とせる)、ガス(必要がないときには消す)、電気(使わない所は消す)の無駄、材料の無駄(最後まで使う、不良在庫は置かない)など—。これもしつけの考え方がもとです。

 社会の「ゆとり教育」の結果、「あいさつって何故しなければいけないっすか」と言うA君のような若者が、これからはたくさん出てくるでしょう。学校の教師がちょっと強く注意したら、怒鳴り込んでくるモンスターペアレントがいて、親が怖いからなにもしない教師では、ますますできの悪い子どもたちができあがってしまいます。人を使うというとは、ますますリスクが生じてきます。それを覚悟でうまく使いこなすしかありません。

文/菊島延佶(オフィス キクシマ)

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